「多少費用がかかっても医学部に入りさえすれば医者になれる」そう思って高い学費がかかる私大医学部にお子さんを入学させたものの、「何年も留年し、医師国家試験（国試）にも受からない」と嘆くお父さん・お母さん方が最近増えているそうです。
ただでさえ高い医学部の授業料が留年した分まで増える事に加え、医師国家試験の予備校代までかかるわけですから悲鳴をあげざるをえない状況といえるでしょう。
今回は医学部の留年と医師国家試験の合格率について記載したいと思います。
留年が慢性化し、一部の私大では卒業まで１０年が平均に
一部の私大医学部では、留年が慢性化しており、「卒業するまで平均１０年かかる」というのが医学部生の間で常識化してしまっている大学もあるようです。学費が高い私大にその傾向がよく見られ、２０００万円～３０００万円程度ストレートで卒業した時に比べて学費が余分にかかる計算になります。
大学別の医師国家試験合格率ランキング（受験者合格率）
第１１１回医師国家試験は、前年を約４ポイント下回る８８.７％の非常に低い合格率でした。国公立大学医学部の合格率は９０.８％、私立大学医学部の合格率は８６.５％となっています。
大学別の医師国家試験合格率ランキング（受験者合格率）の上位トップ１０と下位トップ１０は以下となっています。
＜上位トップ１０＞
１位：自治医科大学（私立）：受験者101名→合格者101名 合格率100.0%
２位：筑波大学医学専門学群（国立）：受験者114名→合格者112名 合格率98.2%
３位：名古屋市立大学医学部（公立）：受験者113名→合格者110名 合格率97.3%
４位：横浜市立大学医学部（公立）：受験者89名→合格者86名 合格率96.6%
５位：東京医科歯科大学医学部（国立）：受験者109→105名 合格率96.3%
６位：順天堂大学医学部（私立）：受験者125→120名 合格率96.0%
７位：金沢大学医学部（国立）：受験者123→118名 合格率95.9%
８位：慶應義塾大学医学部（私立）：受験者114→109名 合格率95.6%
９位：佐賀大学医学部（国立）：受験者110→105名 合格率95.5%
１０位：浜松医科大学（国立）：受験者123→117名 合格率95.1%
＜下位トップ１０＞
１位：帝京大学医学部（私立）：受験者数115名→合格者86名 合格率74.8%
２位：岩手医科大学（私立）：受験者数138名→合格者106名 合格率76.8%
３位：獨協医科大学（私立）：受験者数126名→合格者99名 合格率78.6%
４位：福岡大学医学部（私立）：受験者数108名→合格者85名 合格率78.7%
５位：埼玉医科大学（私立）：受験者数133名→合格者106名 合格率79.7%
６位：久留米大学医学部（私立）：受験者数117名→合格者94名 合格率80.3%
７位：大阪医科大学（私立）：受験者数124名→合格者100名 合格率80.6%
８位：東海大学医学部（私立）：受験者数111名→合格者90名 合格率81.1%
９位：愛知医科大学（私立）：受験者数113名→合格者92名 合格率81.4%
１０位：日本医科大学（私立）：受験者数120名→合格者99名 合格率82.5%
医師国家試験合格率のカラクリ
上記を見ますと「全国８０大学の合格率平均が約９割」「合格率下位大学でも８割前後合格」となり、比較的高い合格率だと感じるかもしれません。
しかし、これらの数字は「見せかけ」の数字であり、実態とは大きく乖離しています。そのカラクリが「卒業試験」にあります。
・国の補助金減額・打ち切り
・大学入試での志願者数が減る
などを恐れて、一部の私大では卒業試験でふるい落とし、医師国家試験（国試）を受けさせないということが行われています。
上記の合格率は「合格者数÷受験者数」で計算されいます。出願はしたものの卒業試験に落ちたので（受験資格がなくなり）受験しなかった学生は含まれていないのです。
「本当の合格力」は受験者合格率ではなく、出願者合格率（出願者数÷受験者数）を見ればわかります。国公立大医学部（全国平均）は受験者合格率が９０.８％・出願者合格率８９.６％であまり乖離していないのに対して、私立大医学部（全国平均）は受験者合格率が８６.５％・出願者合格率８０.６％と６％も乖離しています。この数値には慶應などの上位私大や（私大といっても特殊性が高い）自治医大が含まれていますので、それらを除くと更に乖離率が高くなります。
本当の医師国家試験合格率（出願者合格率）
大学別の医師国家試験合格率ランキング（出願者合格率）の上位トップ１０と下位トップ１０は以下となっています。
私大医学部を志願されている受験生の方は、入る時の偏差値だけでなく「出口」の数字も考慮して志願先を決めた方が良いかもしれません。
＜上位トップ１０＞
１位：自治医科大学（私立）：出願者数103→合格者数101 合格率98.1%
２位：筑波大学医学専門学群（国立）：出願者数115→合格者数112 合格率97.4%
３位：名古屋市立大学医学部（公立）：出願者数114→合格者数110 合格率96.5%
４位：東京医科歯科大学医学部（国立）：出願者数109→合格者数105 合格率96.3%
５位：順天堂大学医学部（私立）：出願者数125→合格者数120 合格率96.0%
６位：鳥取大学医学部（国立）：出願者数123→合格者数116 合格率94.3%
７位：千葉大学医学部（国立）：出願者数132→合格者数124 合格率93.9%
８位：島根大学医学部（国立）：出願者数115→合格者数108 合格率93.9%
９位：浜松医科大学（国立）：出願者数125→合格者数117 合格率93.6%
１０位：横浜市立大学医学部（公立）：出願者数92→合格者数86 合格率93.5%
＜下位トップ１０＞
１位：帝京大学医学部（私立）：出願者数142→合格者数86 合格率60.6%
２位：愛知医科大学（私立）：出願者数137→合格者数92 合格率67.2%
３位：杏林大学医学部（私立）：出願者数138→合格者数95 合格率68.8%
４位：岩手医科大学（私立）：出願者数152→合格者数106 合格率69.7%
５位：久留米大学医学部（私立）：出願者数132→合格者数94 合格率71.2%
６位：近畿大学医学部（私立）：出願者数124→合格者数91 合格率73.4%
７位：川崎医科大学（私立）：出願者数140→合格者数104 合格率74.3%
８位：関西医科大学（私立）：出願者数138→合格者数104 合格率75.4%
９位：獨協医科大学（私立）：出願者数131→合格者数99 合格率75.6%
１０位：福岡大学医学部（私立）：出願者数112→合格者数85 合格率75.9%
ワーストランキングの１位から１０位は全て私大医学部でした。ワースト１位の帝京大学医学部の出願者合格率は約６割となっています。約４割の医学部生が、卒業できないか医師国家試験に受からなかった計算になります。
受験者合格率と出願者合格率の差
医師国家試験（国試）の「受験者合格率ランキングのワースト１０」と「出願者合格率ランキングのワースト１０」を見比べると顔ぶれがかなり違うことが分かります。
「出願者合格率ランキングのワースト１０」に登場しているのに「受験者合格率ランキングのワースト１０」に登場していない大学は、大学の方針として「国試に合格できるレベルにならなければ卒業させない」というポリシーがあるのかもしれません。
以下は、受験者合格率と出願者合格率の差が大きい医学部のランキングです。
１位：杏林大学医学部（私立）：
受験者合格率85.6%→出願者合格率68.8%⇒差16.7%
２位：近畿大学医学部（私立）：
受験者合格率88.3%→出願者合格率73.4%⇒差15.0%
３位：川崎医科大学（私立）：
受験者合格率88.9%→出願者合格率74.3%⇒差14.6%
４位：愛知医科大学（私立）：
受験者合格率81.4%→出願者合格率67.2%⇒差14.3%
５位：帝京大学医学部（私立）：
受験者合格率74.8%→出願者合格率60.6%⇒差14.2%
６位：藤田保健衛生大学医学部（私立）：
受験者合格率89.0%→出願者合格率76.4%⇒差12.6%
７位：北里大学医学部（私立）：
受験者合格率93.0%→出願者合格率83.5%⇒差9.5%
８位：久留米大学医学部（私立）：
受験者合格率80.3%→出願者合格率71.2%⇒差9.1%
９位：関西医科大学（私立）：
受験者合格率83.2%→出願者合格率75.4%⇒差7.8%
１０位：岩手医科大学（私立）：
受験者合格率76.8%→出願者合格率69.7%⇒差7.1%
上位には、受験者合格率と出願者合格率の差が１５％前後でている医学部が並んでいます。６～７人に１人が卒業できないという実態が分かります。
